パワークリーン(ハイクリーン)のやり方のコツ!筋肥大には向かない?
重量挙げの選手や陸上競技の選手たちが行なっているパワークリーンは瞬発力を鍛えるために非常に効果的です。
筋トレ愛好者は個々の筋肉を個別に分けて鍛えがちですが、パワークリーンのように、全身を1回で鍛える種目も筋トレメニューに入れると体全体が強くなって、結果的に個別の筋肉も強くなります。
身体能力全体を鍛えるために非常に効果的な筋トレ方法です。パワークリーンを行なうと神経系も鍛えられるので、期間限定でもメニューに加えてみると効果的です。
パワークリーンとハングクリーンの違い
パワークリーンとよく似た動きをするハングクリーンとパワークリーンの違いについて解説します。
ハングクリーンの動作がわかる動画
スタートポジションの違い
まずはスタートポジションの違いです。パワークリーンでは床に置いたバーベルを引き上げますが、ハングクリーンではあらかじめ床から引いてバーベルを腕からぶら下げた状態からのスタートになる点が大きく違います。
パワークリーンではファーストプルで膝のあたりまでバーベルを引き上げるのに対して、ハングクリーンではファーストプルの部分を飛び越えてパワークリーンで言うところのセカンドプルの位置からスタートします。ハングクリーンでは膝のあたりからのスタートになります。
鍛える部分の違い
パワークリーンとハングクリーンでは可動域の違いから、鍛える部分が違ってきます。
床からバーベルを持ち上げるパワークリーンの方がかなり可動域が広いため、背中だけでなく脚の筋肉もかなり動員されます。
床に置いたバーベルをファーストプルで持ち上げる動作ではデッドリフトと動作が似ています。
これに対してハングクリーンでは膝のあたりからバーベルを持ち上げるため、脚の筋肉はパワークリーンほどには動員されません。
全身運動としての違い
全身運動として比較すると、パワークリーンの方がハングクリーンよりも勝ります。
ハングクリーンは膝から上に構えたバーベルを持ち上げるので、脚や大臀筋などの下半身の筋肉はそれほど動員されません。
これに対して、パワークリーンは床からバーベルを持ち上げる分、デッドリフトの動作とハングクリーンを組み合わせたような動作になり、全身の筋肉の動員率がかなり高くなります。
補強運動として使う場合
パワークリーンもハングクリーンも陸上競技を始めとして、パフォーマンス能力を高めるための補強運動として採用されています。これらのどちらを補強運動として使うべきかは目的によって使い分けるのが効果的です。
脚を含めて全身を鍛えたいのであれば、パワークリーンを行なうようにして、上半身をピンポイントで鍛えたいのであればハングクリーンの方が効果的です。
ハングクリーンは可動域が狭いので、連続して繰り返しやすいメリットもあります。
ハイクリーンで100kgを達成する現実性
ハイクリーンで100kgを達成するのは決して簡単ではありません。ベンチプレスでの100kg、スクワットでの100kg、デッドリフトでの100kg、ハイクリーンでの100kgという比較で達成率の難しさを考えると、この中でハイクリーンでの100kgが一番難しいです。
ベンチプレス、スクワット、デッドリフトは筋トレのビッグスリーと言われるように、筋トレの3大基本種目です。筋肉を大きくしたり、筋力を伸ばすための必須の種目がこれらの基本種目です。
これらビッグスリーの中で比較すれば、スクワットとデッドリフトの100kgであれば、達成率はそれほど変わりません。世界記録で見ればスクワットの方が勝っていますが、筋トレ種目として比較すれば、扱える重量は近いです。
スクワットとデッドリフトの100kgであれば、まったくの初心者から始めてもそれほど時間はかかりません。
ベンチプレスの100kgはこれら2種目に比べてかなり難しくなります。
最終的に180キロとか200キロも挙がる素質があるような人であれば100kgのベンチプレスがすぐに挙がるようになりますが、そこまで強くなれる人はかなり稀です。
ベンチプレスの100kgというのは筋トレを本格的に行なっている人にとってもひとつの壁になっています。逆に言えば、ベンチプレスで100kgを挙げたら、立派と言えます。
そして、ハイクリーンでの100kgというのはベンチプレスよりもさらにハードルが高いです。デッドリフトで100kgで引いたところから肩の高さまで持ち上げるわけですから、動作の連続性でも難しいです。
しかも、手首の返しも必要ですから、テクニックの問題もあります。しかし、平均的な素質の人でもハイクリーン100kgはトレーニング次第で十分達成可能です。
ハイクリーンの筋肥大効果
筋肉を大きくさせる筋肥大効果のためには、多くの筋トレ種目で1セットあたり8回から10回で限界まで追い込むのが効果的とされていますが、ハイクリーンでは瞬発力を鍛えるために1セットあたり4回から6回が推奨されています。回数だけで考えると筋肥大効果があまりないのではないかとも考えられます。
しかし、仮にハイクリーンで1セットあたり8回から10回で行なったとしても、筋肥大の効果が上がるかと言えば、そうでもありません。
ハイクリーンの動作を分析すれば、最初に膝まで引いたバーベルを、そこから肩まで一気に持ち上げます。そして降ろすときも素早く動きます。筋肉に効かしながらゆっくりと動かすわけではありません。
このような動作では直接的には筋肥大にはそれほど効果があるとは思えません。しかし、瞬発力をつけることは神経系を鍛えることになり、間接的に筋肥大に貢献することになります。
実際にハイクリーンを低回数で行なっているウエイトリフターたちの筋肉は見事に発達しています。ハイクリーンは動作に関連する筋肉の筋肥大に最適な方法ではないとしても、好影響を与えると言えるでしょう。
パワークリーンとダンベルの相性
バーベルで出来る種目であれば、多くのものはダンベルでもできます。
バーベルでのベンチプレスの代わりにダンベルベンチプレスができますし、バーベルを肩に担いでのスクワットの代わりにダンベルを両手に持って行なうこともできます。
パワークリーンもダンベルでもできないことはありませんが、他の種目のようにはいかないというのが現実です。ダンベルでパワークリーンを行なう場合の相性について考えてみましょう。
バーベルとダンベルの違い
パワークリーンの場合、他の種目のようにダンベルでの代用が難しいのは、バーベルとダンベルの違いが影響しています。
バーベルは1本のシャフトを握りますから、膝までバーを引いたファーストプル、そこから肩で受けるまでの一連の動作がスムーズにできます。
オリンピックシャフトが滑らかに回転するからこそできることです。シャフトが回らないとしたら、手首の返しの時点で引っ掛かって失敗する確率が高くなります。これがバーベルの長所であり、パワークリーンがやりやすい理由です。
これに対してダンベルの場合はパワークリーンがやりやすいバーベルの長所の部分がありません。
ハンドル部分が回転するダンベルもありますが、高重量になるとそれもありませんし、高重量になるほど肩まで持ち上げる際にウエイト部分が邪魔して持ち上げにくいです。
あまり高重量ではできない
そのため、ダンベルでパワークリーンをやろうとしても、あまり高重量ではできません。肩まで持ち上げる、手首を返して肩で受けるといった動作自体がダンベルでは難しいので、本格的なパワークリーンには向きません。
手首に与える負担
ダンベルでパワークリーンを行なうのが難しいのは、手首に与える負担にも問題があります。高重量のダンベルを持ち上げるときに手首に不測の捻りと負荷がかかり、痛める可能性があります。
ダンベルをたとえばインクラインプレスやダンベルショルダープレスのために肩の位置まで持ち上げるとしたら、一度持ち上げる手間はかかりますが、持ち上げてからの動作は比較的に固定されているので、それほど手首の負担になりません。
それに対して、ダンベルでパワークリーンをするには、床に置いたダンベルを繰り返し肩の位置まで持ち上げることになり、不測の負荷がかかり、手首を痛める危険があります。
重くなったり疲れてくると、片方のダンベルは挙がって、もう片方が挙がらないなどということも出てきます。バーベルは1本でつながっていますから、そのようなことがありません。
結論
これらのように、ダンベルとパワークリーンの相性はとても良いとは言えません。
それでもダンベルでパワークリーンを行なうのであれば、十分に余力があるぐらいの軽い重量で抑えるようにしましょう。
ハイクリーンで強化される競技
ハイクリーンは数多くのスポーツの競技能力が鍛えられます。どのような競技に効果的か、代表的なものを挙げてみましょう。
格闘技
格闘技は柔道、空手、総合格闘技など、いずれにしても背筋力を始めとした全身のパワーが必要です。ハイクリーンは格闘技で使う筋肉のかなりの部分を鍛えてれます。
打撃系の筋力は大胸筋などの前面の筋肉以上にハイクリーンで鍛えられる背筋の方が重要です。背筋はヒットマッスルと呼ばれるようにパンチ力を大きく左右します。
野球などの球技
野球は試合時間が長くて持久力のスポーツと思いがちですが、個々のプレーを見れば、かなりの瞬発力が要求されます。
ボールを速く投げる、バットで打って遠くへ飛ばすには下半身から背筋までの力次第です。ピッチャーの速球にしてもハイクリーンで鍛えられる背筋力がものを言います。
野球以外の球技にしてもパワークリーンでパフォーマンス能力が格段に上がります。
陸上競技
陸上競技にはハイクリーンで鍛えるべき種目が多いです。
槍投げやハンマー投げ、砲丸投げといった投擲系はもちろんのこと、短距離、棒高跳びなど、瞬発力と筋力が必要なものはすべて該当します。
陸上競技には脚力と背筋力の連動が重要な跳躍系の種目が多いですから、パワークリーンで鍛えるのが効果的です。
ハイクリーンに効果的なセット数と回数
ハイクリーンに効果的なセット数と回数について解説しましょう。
セット数
ハイクリーンに効果的なセット数としては、初心者なら3セット、経験者でも5セット行なえば十分です。これらのセット数はウォーミングアップを含めない限界まで追い込む本番のセット数のことです。
その前に軽い重量で数セットほどウォーミングアップセットをこなしましょう。このウォーミングアップセットをしないと高重量がスムーズに挙がりませんし、ケガの防止にもなります。
回数
1セットあたりの回数は4回から6回あたりが効果的です。
一般的に筋トレ種目は8回から10回が推奨されますが、ハイクリーンの場合は瞬発力と全身のパワーをつけるのが大きな目的ですから、中回数よりも低回数の方がおすすめです。
ハイクリーンでのキャッチ動作
ハイクリーンではファーストプルでまず膝のあたりまでバーベルを引き上げ、そこからセカンドプルとして肩まで一気に持ち上げます。
肩まで持ち上げつつ、手首を反らして肩でバーベルを受け止めます。
この動作を「キャッチ」と言います。このキャッチの動作は初心者には意外に難しいです。キャッチのコツについてご説明しましょう。
手首を返す
セカンドプルで持ち上げたバーベルのシャフトを肩でキャッチさせるために手首を返します。この手首を上手く返すにはバーベルのシャフトが滑らかに回転しないと難しいです。
シャフトが回転しないエクササイズバーでもハイクリーンはできますが、やはりオリンピックシャフトのようにはいきません。
肘の返し方
セカンドプルから肩でのバーベルのキャッチでは肘の返し方も重要です。
肘を曲げるタイミングと手首の返しのタイミングが合っていないと肩でのキャッチが苦しくなりますから、初めは軽い重量で練習してみましょう。
キャッチする際の衝撃を和らげる
肩でバーベルをキャッチした際に受けた肩などがバーベルの衝撃で痛くなる場合があります。肩や大胸筋上部、鎖骨周りの筋肉が少ない人ほど骨に直接バーが当たるので、余計に痛みを感じやすいでしょう。その痛みや衝撃を和らげるには、バーベルをキャッチする際に膝を曲げてクッションを作ると衝撃を和らげることができます。
肘と手首を返す際のスピードと体の受け方を練習することも衝撃を和らげますし、ハイクリーンを繰り返すことで体がキャッチの衝撃に慣れてもきます。
筋トレ方法としてのクリーン&ジャークとの比較
パワークリーンによく似た筋トレ種目としてクリーン&ジャークがあります。パワークリーンの延長にある種目とも言えますが、細かいところでかなり違います。
パワークリーンは単なる筋トレ種目のひとつですが、クリーン&ジャークはオリンピック重量挙げの正式種目です。
そのため、筋トレ効果としての動きよりもいかに高重量を挙げるかという視点での動きになっているのがパワークリーンとの大きな違いです。
ファーストプルとセカンドプル
パワークリーンもクリーン&ジャークも床に置いたバーベルを持ち上げる運動であることでは共通しています。その方法として、まずファーストプルで膝の当たりまでバーベルを引き上げ、そこからセカンドプルで肩まで持ち上げます。
ここまでは文章にすれば同じ動作ですが、パワークリーンは筋トレ種目として、全身運動や瞬発力の強化のための種目であるのに対して、クリーン&ジャークはそれ自体がどれだけ重いバーベルを持ち上げるかの競技種目であるため、筋トレ効果とは別の競技としてのテクニックが発揮されています。
ファーストプルまではパワークリーンと同じですが、セカンドプルの段階で際立った違いが出ます。
バーベルを肩で受ける高さの違い
パワークリーンもクリーン&ジャークでも、セカンドプルでバーベルを持ち上げて、肩で受けますが、受ける際の高さが違います。パワークリーンはハイクリーンとも呼ばれるように、膝を少し曲げてクッションにしたぐらいの高さですから、ほとんだ立ち上がった状態での肩の高さになります。
これに対してクリーン&ジャークでは、セカンドプルでバーベルを一気に持ち上げながら、それと同時に膝を深く曲げてバーベルの下に入り込みます。バーベルを肩で受けるポジションはフロントスクワットで降ろし切った状態に似ています。違うのは手首を返してバーベルを保持しているところぐらいです。
オリンピックの重量挙げ選手はフロントスクワットに非常に強く、重量級の選手ともなれば300キロ以上を軽々とこなします。
フロントスクワットの要領で立ち上がる
そして、このフロントスクワットで降ろし切ったポジションから立ち上がります。
まずクリーン&ジャークでは、わざわざセカンドプルの時点でバーベルを持ち上げながら深くしゃがみ込んでバーベルの下に入り込むのかと言えば、その方が重い重量が挙がるからです。普通のハイクリーンで肩まで持ち上げる方法で行なうとしたら、挙がる重量がかなり下がります。
この方法は瞬発力をつけるなどの筋トレ効果を狙ったものではなく、純粋に記録を出すための方法です。
重量挙げというオリンピック種目であることから考えられたテクニックです。
ジャークの動作
さらにそこからフロントスクワットの要領で立ち上がったところから、脚を前後に開脚させながら全身でバーベルを頭上に押し上げます。これがクリーン&ジャークの「ジャーク」の部分であり、ハイクリーンにはない動作です。
ベンチプレスのように筋肉の力で押すというよりも、全身のバネで跳ね上げるような感じです。競技としてのクリーン&ジャークであれば、この後、前後に開いた脚を揃えてバーベルを頭上で静止させることで成功と認定されます。
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まとめ
パワークリーンは背筋や脚力を中心として、かなり広範囲に鍛える全身運動に近い種目です。個々の筋肉を細かく肥大させることよりも全身の瞬発力をつける効果があります。
床から肩まで持ち上げるには脚力と背筋力の連動が重要になりますが、ほとんどのスポーツでそれが要求されます。
野球やアメフト、格闘技はもちろん、バレーボールやバスケットボールのように高くジャンプするスポーツのパフォーマンス能力もパワークリーンで格段に向上します。
瞬発力をつけるための運動ですから、1セット当たりの回数として4回から6回が推奨されていますが、パワーのためではなく、女性のシェイプアップ目的であれば10回以上の回数でもいいでしょう。シェイプアップであれば、他の筋トレ種目と同様に回数を増やすことで全身の代謝スピードを上げるためにも高回数で行なってみましょう。
パワークリーンが強くなるとスクワットやデッドリフトなどの記録にも好影響を与えてくれます。床から爆発的に肩まで持ち上げるため、神経系が発達しますので、スクワットやデッドリフトを単独で行なうだけよりも記録が伸びやすくなります。