前鋸筋の働きと鍛え方【器具あり・器具なしのトレーニング方法】
スポーツ選手はおろか、トレーニングジムに通っている人達でさえ、前鋸筋という筋肉の名前はあまり聞き慣れないでしょう。初めて聞く名前の人も多いかもしれません。
見た目も大きく見えないし、筋肥大を図ってカッコイイ筋肉にするために取り組んで優先的に鍛えようとする人も多くないです。
そこで今回は、スポーツ動作において重要な、前鋸筋の働きと鍛え方を紹介していきたいと思います。
前鋸筋(ぜんきょきん)とは
前鋸筋(英語表記:serratus anterior)は肩甲骨から肋骨にかけて広がってる筋肉で、一部は表層にあるのですが大部分が胸筋に覆われているため、インナーマッスルとしても考えられている筋肉です。
名前に「鋸(のこぎり)」とあるようにのこぎりのような形をしています。
前鋸筋の働き
前鋸筋は主に、肩甲骨と肋骨の動きに関わっていて、特に、肩甲骨を外転させて肩を前に出したり、腕を前に押し出したりするような動きに伴ってきます。
そして、特筆される事が少ないですが、息を深く吸う時に肋骨を持ち上げて呼吸を助ける筋肉としての役割もあります。肩甲骨が固定されている時に肋骨を挙上すると呼吸を助ける働きをします。
スポーツにおける前鋸筋の重要性
スポーツの動作において、中央に寄っている肩甲骨を外転する動きによって腕が押し出され、肘が伸びきる残り10℃くらいの時に強く働く筋肉として知られています。
あまり話題にならないところでは、水泳の「けのび」や、バスケットボールで、シュートを打つ時のボールをリリースする時。砲丸投げの投擲やウェイトリフティングでの挙上。有名なところでは、野球のピッチャーがインナーマッスルのトレーニングとして行っています。
そして、前鋸筋が最も活躍するスポーツと言われているのがボクシングです。
前鋸筋は別名「ボクサー筋」とも言われます。
ボクシング選手が特に発達している事から言われる事ですが、理由として、「腕を前に押し出す」。ボクシングの動きが顕著で、力強いストレートのパンチを打つために発達する筋肉です。
前鋸筋の重要性
肋骨から肩甲骨に広く繋がっている前鋸筋ですが、スポーツにおいての働きは前述したとおりです。
そして、その本質は安定性です。
近年、スポーツ界では肩甲骨と股関節の柔軟性と使い方が重視されていますが、前鋸筋は肩甲骨の安定に重要な筋肉です。
そのために、投手の故障防止及び、ピッチング向上の肩周りのインナーマッスルを鍛えるトレーニングの一つとして前鋸筋のトレーニングを行います。
そして、前鋸筋は背中側にある僧帽筋や菱形筋と繋がっているため、肩甲骨や肩関節の安定には欠かせない重要な筋肉の一つなのです。
前鋸筋のトレーニング
前鋸筋のストレッチ
前鋸筋のトレーニングの前にストレッチを行います。
前鋸筋は日常生活でも猫背になると緊張状態になり、肩凝りの原因にもなり得るのでしっかりほぐします。
前鋸筋のストレッチ方法1
両手を組んだまま、頭の上まで両腕を伸ばします。その状態から横へ倒して前鋸筋がストレッチされた状態で10秒以上維持します。
前鋸筋のストレッチ方法2
立ったままお尻上部から腰にかけて両手を当て、手で腰とお尻を押していきます。ポイントは肩甲骨が引き寄せられて胸を張る事です。その状態で10秒以上維持します。
前鋸筋の鍛え方
前鋸筋は器具を使ってトレーニングをする時、重量を重くすると前鋸筋のトレーニングが出来なくなるのでその点を注意します。
そしてここでは、自重で行うトレーニングと器具を使って負荷をかけるトレーニングを紹介します。
前鋸筋の鍛え方(器具無し)
腕立て伏せ
腕立て伏せは一般的なトレーニングですが、それとは少し違います。
基本姿勢は腕立て伏せと同じです。そこから腕は曲げずに伸ばしたままゆっくりと肩甲骨を引き寄せて体を落として、今度は肩甲骨をゆっくり引き離すように外転させて両腕で地面を押します。
10回~20回連続して行います。
ボクサーエクササイズ
ボクサー筋とも言われる前鋸筋なので、当然ボクシングのパンチはトレーニングになります。
右左とリズミカルにひたすらボクシングのパンチを行うトレーニングです。強いパンチを打つ意識より素早く動く方が効果的です。
最初は10秒。慣れてきたら30秒行います。
ディップス
上半身のスクワットと言われ、本来バーを掴んで行うディップスですが、強い負荷が肩関節にかかり怪我をする恐れもあるので、前鋸筋のトレーニングという事で負荷の軽いディップスを紹介します。
椅子を二つ用意します。両足を前に伸ばし、両手は椅子に着きます。この時点で両肘は90度曲がっています。体が浮いている通常のディップスとは違い、足が地面についているので比較的軽い負荷で行えます。
肩甲骨の外転をしっかりと意識するとより効果的です。
10回~20回行います。
前鋸筋の鍛え方(器具有り)
ケーブルプレス
ケーブルマシンを使って前鋸筋を鍛えます。
高い位置にセットされた(ハイプーリなど)バーを外して、シングルアーム用の器具をセットします。
取っ手を握ってマシンに背を向けて立ち、握っている手とは逆の足(右手なら左足)を前に広げてバランスを取ります。
肩甲骨の外転を意識しながら力強く腕を押し出していき、伸ばしきったらゆっくりと肘を引いていきます。10回~20回軽い負荷で行います。
ショルダーフロート
前鋸筋は肩甲骨が固定された状態で腕を押し出すと最大収縮するので、これを利用して器具を使って負荷をかけます。
仰向けになり、膝を90度立てます。
一つのダンベルを両手で握り、胸の上で腕を伸ばします。
肘は曲げずに肩甲骨を浮かせたり落としたります。ダンベルの重量は重いと感じない程度にします。
10回~20回行います。
動画:前鋸筋(ぜんきょきん)にターゲット絞った鍛え方
アップライトロー
ダンベルで行います。両手にダンベルを持って体の前にセットします。
両肘を引き上げていくようにダンベルを持ち上げていきます。肘の位置が常に両腕より高い位置にあるようにします。
肩をすくめた姿勢にならないように肩甲骨をしっかり動かします。両肘を上げきったらゆっくり下していきます。ダンベルの重量は重いと感じない程度にします。
10回~20回行います。
このトレーニングは三角筋と僧帽筋をメインとしたトレーニングですが、僧帽筋の拮抗筋である前鋸筋をサブとして行えるトレーニングなので非常に有効です。
動画:肩のトレーニング アップライトロウ
トレーニングチューブ
トレーニング用のゴムチューブを用いますが、特に場所を選ばない上にお手軽に出来るため非常におすすめです。
立った状態で、ゴムチューブを両手で持って背中から回して、腕を前に伸ばした状態が基本姿勢です。
後は前述したショルダーフロートや腕立て伏せと同じ要領で、腕を伸ばしたまま肩甲骨を外転して外側に開いて腕を前に押し出したり、肩甲骨を引き寄せて腕を引きます。
このゴムチューブを用いた場合の良い所は、ダンベルを持ったり、腕立て伏せのような、前鋸筋以外に負荷がかかってしまい、いまいち前鋸筋に効いてるかわかりづらいとはなりづらく、肩甲骨周りの柔軟性を保ちながら前鋸筋のトレーニングを行えるため、前鋸筋のトレーニングを初めて行う人や、そもそも筋トレ自体初心者の人には非常に有効なトレーニングです。
10回~20回行います。
タイヤ叩き
自動車、出来れば、トラックや中型自動車以上の大きなタイヤを用意して、3~4キロ以上の両手で持つ大きなハンマーでタイヤを叩きます。
格闘家に多いこのトレーニングですが、広背筋などの主に上半身を狙ってのトレーニングで、パンチを打つなどの全身を使った実戦的な動きに近い上に筋力向上も図れるトレーニングです。
前鋸筋をターゲットにしたトレーニングではありませんが、全身の筋肉の神経を繋げるトレーニングで、かつ筋トレにも有効で前鋸筋のトレーニングにもなっているので、打撃系の格闘家にはお勧めのトレーニングと言えます。
動画:ボクシング 強打を養成、ハンマー・トレーニング
最後になりますが、前鋸筋は筋肥大をする目的とは違い、肩甲骨周りの使い方や安定といった側面が多く、柔軟性や日常の肩周りのストレッチを欠かす事の出来ない筋肉です。
まずは安定と柔軟性というしっかりとした土台を作った上での前鋸筋のトレーニングであるという事をしっかりと心掛けてください。