ノーチラスマシンの特徴と筋トレ効果を徹底検証
「ノーチラスマシン」のブランド名は古くからの筋トレマニアには独特の響きがあります。かつて、ボディビル界に大ブームを巻き起こしたのがノーチラスマシンです。当時のトレーニングの常識を覆すような独特な理論と、実際に衝撃的な効果を上げたとされる選手の存在などが後押しもしました。単独の筋トレ器具のインパクトとしては過去最大クラスでした。
現在は当時のようなブームは去りましたが、ノーチラスマシンが依然として効果的な筋トレ器具であることには変わりありません。
ノーチラスマシンがなぜあれほど筋トレ界を熱狂させたのか、その理由とノーチラスマシンの実際の効果などについて解説いたします。
一世を風靡した筋トレマシン
ノーチラスマシンは1970年代初期に一世を風靡した筋トレマシンでした。ブームというのはどの時代にもあるものですが、1970年代から1980年あたりまでは筋トレ界でも何か特別な筋トレ方法で劇的な効果があるものがあるのではないかと期待されていた時代だったと言えるでしょう。
そういう時代の要請もあったでしょう。ノーチラスマシンはまるで魔法の筋トレマシンであるかのように喧伝されました。あのような熱狂的なブームというのは現在の筋トレ界にはありません。それだけ、筋トレ界も成熟してきたからでしょう。時代的な要素を差し引いてもノーチラスマシンが当時の筋トレ愛好者の心を掴んだのには説得力がある理由がありました。
初期のノーチラスマシンのコンセプト
ノーチラスマシンを開発したのはノーチラス社の創業者であるアーサージョーンズ氏です。ジョーンズ氏が次のような理論を提唱しました。これらの理論は筋トレ界にかなりの影響を与えています。
短時間で最大の効果が得られる
ジョーンズ氏が提唱したのが、筋トレで効果を上げるには、必ずトレーニングが短時間でなければならないということです。
本気で筋トレで追い込んだら長い時間は続けられないからということでした。短時間だけのトレーニングで劇的に体を変えることができるということで、ボディビルダーだけでなく、忙しいビジネスマンなどにも注目されました。
ノーチラスマシンだけで究極の肉体が作ることができる
ジョーンズ氏はノーチラスマシンだけで究極の肉体を作れると主張していました。その根拠として、ノーチラスマシンは運動中の筋肉に均等に負荷がかかるからだと主張していました。
初期のノーチラスマシンは楕円形の特殊な歯車のカムとチェーンを組み合わせた独特なメカニカルな動きをしていました。使用感としては、たしかに効くマシンでした。しかし、ノーチラスマシンだけで究極の体が作れるというのは、今考えれば、いかにも無理な話です。
フリーウエイトの否定
ジョーンズ氏は徹底してフリーウエイトを否定する立場でした。
バーベルやダンベルは動作中に均等に負荷がかかるのではなく、ピークポイントを超えると負荷が弱くなる難点があります。その点を否定して、あくまでもマシンの方が優秀な筋トレ器具であると主張していました。
ノーチラス社の社長でノーチラスマシンの開発者としての立場もあったかもしれません。自社の製品を宣伝するためにバーベルを否定していたとも考えられます。
セット数は最小限でなくてはならない
短時間であることとも関係して、セット数は最小限でなくてはならないと提唱されていました。
セット数が多くできるということは強度が足りないからだという理屈です。
ひとつの種目につき1セットが推奨してされていましたから、たしかに少ないセット数でした。
限界まで追い込む
短時間で少ないセットなら楽なトレーニングかと言えばそうでもなく、本当に限界まで追い込むので、きついトレーニング法でした。
ヘビーデューティー法に大きな影響を与えた
アーサージョーンズ氏が提唱したノーチラスマシンの理論は、マイクメンツァー氏のヘビーデューティー法という筋トレ方法にも多大な影響を与えています。ジョーンズ氏の理論とメンツァー氏の理論はほとんど変わるところがないぐらいです。違いがあるのは、ジョーンズ氏があくまでもノーチラスマシンの優秀性を喧伝していたのに対して、メンツァー氏は筋トレ器具についてではなく、ヘビーデューティー法という方法論を重視していたことでしょうか。
ヘビーデューティー法は大多数のトレーニーにはあまり効果がありませんが、一部には劇的に効果が出ることがあります。マイクメンツァー氏本人と弟のレイメンツァー氏が顕著な例です。
マイクメンツァー氏は自らヘビーデューティー法を実践して、1978年のIFBBミスターユニバースに優勝し、翌年にはボディビルの最高峰であるミスター・オリンピアで準優勝、その次の年の1980年にも5位に入賞しています。
アマチュアの世界選手権優勝の翌年にプロの最高峰のコンテストで準優勝ですから、当時、筋トレ界に衝撃を与えました。1980年の5位にしても、本来なら優勝すべき仕上がりでした。弟のレイメンツァー氏もIFBBユニバースで優勝しています。
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ノーチラスマシンのインパクトを決定づけたコロラド実験
ノーチラスマシンのインパクトを決定づけた出来事がコロラド実験です。
ケイシービエターという、わずか19歳でミスターアメリカに輝いたボディビルダーが劇的に筋肉量を増やしたことで、ボディビル界に衝撃を与えました。
28日で28キロの増量
このコロラド実験では上記のケイシービエター選手がわずか28日間で実に63ポンドもの筋量を増やしています。63ポンドと言えば実に28.6キロですから、もの凄い数字です。この数字は体重の増加分と体脂肪の減少を足したものです。
雑誌などで実験開始前と28日後の劇的に変化した比較写真が掲載されたことで、ノーチラスマシンが俄然注目されるようになりました。
わすか14回のトレーニング
このコロラド実験の28日間の間にケイシービエター選手は14回しかトレーニングしていません。しかも1回あたりが30分程度だったそうです。当時のボディビル界では、全身の筋肉パーツを2分割か3分割にして1日に2時間から3時間のトレーニングを週に6回行ない、日曜日だけ休むという方法が主流でした。
そのような常識の中、1回のトレーニングが30分で、驚異的な結果を出したということで、ノーチラスマシンが大きく注目されるようになったのは当然の流れだったでしょう。
リバウンドを利用した
しかし、実はこのコロラド実験にはからくりがありました。
まったく筋トレをやっていない状態から28日間で28.6キロも増えたのであればたしかに驚異的ですが、ケイシービエター選手はもともと19歳時点でミスターアメリカに輝いているほどの凄いボディビルダーです。ナショナルレベルでこれほどの成績を残した選手は後にも先にも彼だけです。
そして、このコロラド実験の前にケイシービエター選手は長いブランクがあって、その上さらに実験のために減量してわざわざ体重を落とした状態でした。その状態からマッスルメモリーと大量の食事とトレーニングでリバウンドさせたというのが、この実験のからくりです。
マッスルメモリーというのは、一度筋トレで発達した筋肉は、落ちても元に戻りやすい現象のことです。
いかにそのマッスルメモリーを利用したとはいえ、劇的な結果であったことには違いないですから、ノーチラスマシンの宣伝効果としては絶大でした。
ブームの終焉
上記のコロラド実験の宣伝効果もあって、ノーチラスマシンが大きく注目されるようになりましたがブームはやがて終焉します。ノーチラスマシンが優秀な筋トレマシンであることは認めながらも、このマシンだけで劇的な効果を上げるボディビルダーがその後出てこなかったことが大きかったです。
コロラド実験で宣伝に利用されたケイシービエター選手にしても、アーサージョーンズ氏の指導を受けていたことは事実であるとしても、19歳でミスターアメリカのチャンピオンになるほどの身体をノーチラスマシンで作ったわけではありません。一時期ノーチラスマシンを使ってはいても、その驚異的な身体のほとんどはバーベルやダンベルを中心に作り上げられたものでした。
ケイシービエター選手はその後、1982年にミスター・オリンピアで3位になっています。全盛期にはベンチプレスで250キロを7回、フルスクワットを272キロで20回できるほどの超怪力の持ち主でした。そんな身体をノーチラスマシン単独で作れるはずもありません。
現在のノーチラスマシンの特徴
かつては魔法のマシンのように持て囃されたノーチラスマシンですが、現在ではもっと現実的な路線のメーカーになっています。
製品ラインアップの変化
現在のノーチラスマシンはかつての良い部分を継承しつつ、大衆向けの筋トレマシンになっています。
アーサー・ジョーンズの時代にはあれほど敵視したフリーウエイトを自社で作るようになっています。
かつてのように差しピン式のマシンが多いですが、ディスクロード式の45度レッグプレスマシンなども作っています。初期の頃と比べてかなり製品のラインアップが変わっています。
ターゲット層の変化
初期のノーチラスマシンがターゲットにしていたのはボディビルダーやアスリートでした。普通の筋力の一般人をターゲットにしていなかったため、重量設定も重く、筋力が弱い人には使いにくいところがありました。マシンのサイズも体格が大きな人間を想定して作られていて、小柄な人には使いにくかったです。
しかし、現在はターゲット層が広くなっています。初心者にも使いやすい大衆路線になっています。大衆化したことでカリスマ的な要素はなくなりましたが、むしろ健全な発展を遂げたと思います。
安全重視
ノーチラスマシンは現在でも非常に値段が高いだけあって、溶接部なども非常にしっかり作られています。高いだけのことはある、という筋トレマシンになっています。安全重視で作られているところが随所に目立ちます。
動画:The man who created Nautilus and the Colorado Experiment
まとめ
ノーチラスマシンが世に最初に出た1970年代初期には、開発者のアーサージョーンズ氏の巧みな宣伝効果もあって、まるで魔法の筋トレマシンかのように持て囃されました。半世紀近くも昔のことです。まだまだ筋肉を発達させるための方法が確立していなかった時代背景もあったでしょう。ジョーンズ氏が提唱した短時間で高強度理論はその後の筋トレ界にも影響を与えました。
ノーチラス理論の熱狂的なブームは終焉したものの、90年代に現れたミスターオリンピア6連覇のドリアンイエーツ選手の活躍により、ヘビーデューティー法が再び脚光を浴びました。それに伴って、ジョーンズ氏の理論が再び注目されていました。
しかし、短時間で鍛えるという理論には一応の説得力があるものの、それがノーチラスマシンでなくてはならない理由にはなりません。実際、マイクメンツァー氏にしてもドリアンイエーツ選手にしても、ノーチラスマシンでその体を作り上げたわけではありません。両者ともバーベルやダンベルを多用しています。メンツァー氏はノーチラスマシンもかなり使っていましたが、ドリアン氏はそれほど使っていません。
現在ではノーチラスマシンだから特別という認識の人はあまりいなくなりました。実際、ノーチラスマシンだけで筋肉を劇的に大きくするというのは事実上、不可能に近いです。仮にノーチラスマシンのアームカールマシンやトライセップスエクステンションマシンで頑張ってトレーニングしたとしても、劇的に腕が太くなることはないでしょう。
ノーチラスマシン単独でそれなりに効果があるのは腹筋や下腿三頭筋ぐらいのものです。それ以外の筋肉についてはフリーウエイトや他のマシンと組み合わせないと発達させることができません。
完全な健康管理に限定するのであれば、ノーチラスマシンだけでもかまいませんが、筋肉を大きく発達させたいというのであれば、フリーウエイトを含めて、他の筋トレ器具でも鍛える必要があります。