棘上筋とは?作用・役割、ストレッチの方法、鍛え方まとめ
みなさんは、物を持つときに肩が痛い人や、持った時に肩を痛めて肩が上がらなくなった人は「五十肩」と思っていませんか?
実は五十肩とは、異なる筋肉が損傷している可能性があります。その筋肉とは「棘上筋(きょくじょうきん)」です。
棘上筋は小さい筋肉で、あまりポピュラーではありませんが、肩の安定性に関与している非常に重要な筋肉の一つです。
棘上筋とは
棘上筋は「回旋筋腱板(かいせんきんけんばん)」という筋肉の一部で、回旋筋腱板は「ローテーターカフ」とも言われています。
回旋筋腱板とは棘上筋、棘下筋、肩甲下筋、小円筋、大円筋の4つの筋肉群の総称で、肩関節の安定に大きく関与しています。
インナーマッスルと呼ばれることがあり、肩の痛みの原因のほとんどは、インナーマッスルにあると言われています。その中でも棘上筋は痛みが出やすい部位の一つです。
棘上筋の働き
棘上筋は肩甲骨と上腕骨に付着しており、主作用として肩関節の外転(腕を真横に上げる)の働きをします。
【起始】
肩甲骨の棘上窩
【停止】
上腕骨の大結節上部、関節包
棘上筋は4つの筋肉の中で構造上最も大きな役割があり、肩峰と上腕骨の間に位置しています。この部位は最も損傷しやすく、筋肉が挟み込まれ、損傷や炎症が起こってしまいます。
また、一度起こってしまうと繰り返しやすく完治するとこが難しいです。この状態の事を一般的にインピンジメント症候群と呼びます。
棘上筋が原因で考えられるもの
インピジメント症候群
インピンジメントと言うのは「挟み込み」という意味で骨と骨の間を通っている筋肉が挟み込まれ肩に痛みが出現します。
日常的に肩を上げるような仕事(建築作業など)や肩を酷使するスポーツ(テニス、野球、バレー、ゴルフ、バトミントン)で棘上筋が慢性的に圧迫され痛みが生じます。また、転倒した際の衝撃によって筋や靱帯が損傷し発症する場合もあります。特にスポーツをしている方に多く発症します。
野球では「野球肩」と言われることもあり、肩の痛みの原因のほとんどがこのインピジメント症候群によるものです。
原因としてスポーツをしている人は特定部分の筋肉を使うことが多く、回旋筋腱板はそれぞれがバランスを取りながら肩の安定性を保っているので、一つでもバランスが崩れると痛みが生じます。そのため予防としてストレッチ、インナーマッスルの筋力訓練を行うことがオススメです。
インピジメント状態を放置しておくと腱板断裂・損傷を発症する可能性もあります。
脱臼
腕に強い外力が加わると肩関節が外れてしまう事があります。これが「脱臼」です。自分で外れた関節を戻せる程度の脱臼は「亜脱臼」となります。他人から徒手で戻してもらう必要があるのを「脱臼」といい区別します。
亜脱臼・脱臼は主に前方か下方に外れることがほとんどです。そのため肩関節の前方に位置している靭帯や筋肉は損傷しやすいです。
肩関節の安定性に関与している筋肉・靭帯が損傷してしまうと、小さな外力で脱臼してしまう事があり、癖になることもあります。重傷な場合だと手術により治療します。現在は技術の進歩により傷跡は比較的小さくなっています。
腱板損傷・断裂
転倒や強い衝撃が腕に加わった時や野球・バレーなど肩を酷使した時に回旋筋腱板が損傷・断裂し発症します。
腱板損傷では特に「棘上筋」の損傷・断裂が多く見られ、小さい断裂であれば痛みにより筋力低下が起こり機能障害となります。
大きな断裂の場合では手術が適応となり予後は良好となりやすいです。しかし、小さい断裂が徐々に大きくなり手術が適応されても周囲の軟部組織が硬くなっているため大きな回復は難しい事もあります。
腱板断裂の特徴として腕を横に上げる初めの動作は痛みが強いですが、肩より上に、上げてしまえば比較的スムーズに上がることがあります。五十肩の場合は反対で肩から上に上げようとすると痛みが強く上がらないことの方が多いです。
肩関節周囲炎(五十肩)
五十肩とは40~50歳台に多く発生する肩関節の痛みと可動域制限を伴う疾患の事です。
肩には関節包(関節を包む袋)、肩峰下滑液包(関節の動きをよくする袋)、回旋筋腱板(肩のインナーマッスル)などから構成されており、これらの軟部組織が老化により変性し、組織が炎症することで肩の痛みが生じます。また軟部組織が癒着することで肩の動きが悪くなります。
五十肩は特別な治療をしなくても治る人がほとんどです。しかし3ヶ月で治る人もいれば一年以上かかる人もいます。
五十肩になった場合は出来る範囲で肩を動かしてストレッチを行って下さい。また回旋筋腱板のストレッチもしっかりと行うことで比較的早く治ります。
棘上筋のストレッチ
棘上筋のストレッチの場合だと基本的に腕を後ろに伸ばしたり、後ろで腕を組むようにすると棘上筋のストレッチとなります。
後方での腕組み
肘を曲げて腕を背中の方へ持っていきます。反対側の腕で肘を持ち引っ張ります。
インピンジメントの方にはオススメのストレッチです。30秒程度ゆっくり息を吐きながら腕を伸ばしてください。
五十肩の人は、腕を後ろに持っていく動作は痛みが強い為無理しないようにお願いします。
後方で手を合わせる
両手を背中に持っていき手を合わせることで棘上筋のストレッチになります。また棘上筋以外にも肩甲骨のストレッチにもなります。肩こりの人にも有効的なストレッチです。
しかし、この動作は肩甲骨が柔らかい人にしかできないレベルが高いストレッチです。無理に行わないようにしてください。
後方で握手をする
痛い方の腕を背中に持っていき、反対側の腕を上から背中に持っていき握手します。このストレッチも肩甲骨が硬いと難しいため、タオルを使用すると行いやすいです。
ポイントとして胸をしっかりと張って行うことで効果的にストレッチを行うことが可能です。
腰に手をあて肘を出す
腰に手を当てて、手はそのままで肘を前方に出してください。肩、肩甲骨の可動域を広げることが期待できます。呼吸は止めず吐きながら行うようにしてください。
肩を酷使するスポーツの人はぜひ行ってほしいストレッチの一つです。一人では難しい方は肘を持っていただき手助けしていただきましょう。
棘上筋のトレーニング
ダンベルを持ち腕を上げる
- 掌を上に向けて軽めのダンベルを持ちます。
- 肘は軽く曲げて、横から肩の高さまで腕を上げます。この時に肩が上がらないように注意してください。
腕を90°以上まで上げてしまうと効果的に棘上筋を鍛えることができません。また重すぎるダンベルを持ってしまうと異なった筋肉が作用してしまうため、自分に合った重さのダンベルを使用してください。だいたい2kg以内の重さで十分だと思います。
チューブを使用したトレーニング
- チューブを足で踏みもう一方を手で持って下さい。
- 掌は上に向けて横から肩の高さまで上を上げます。この時に肩が上がらないように注意してください。
この時も90°以上、腕を上げないように注意してください。
体を使用したトレーニング
- 肘を立てて体を起こしながら横向きに寝ます。
- そのまま肘・前腕・足で体を支えるように体幹を上げます。
この方法は体幹のトレーニングにもよく使用されますが、肩周囲のトレーニングにもなります。体が前や後ろに行かないように注意して下さい。
まとめ
今回は、棘上筋の働きや、疾患、ストレッチ、トレーニングについて説明させていただきました。
棘上筋が肩関節で重要な役割をしていることが理解していただけたと思います。
肩の痛みは棘上筋だけでなく、その他の筋肉に原因がある場合があるため、痛みがある人は一度、専門家に診ていただいて下さい。
肩の痛みがある方は今回説明させていただいたストレッチやトレーニングを無理のない範囲で実践してみてください。また、痛みがない方でも予防として行ってください。